設立趣意
東西冷戦が終焉した1990年代以降、わが国の経済は混迷を続け、将来への展望が開けず、また明確なビジョンを欠いたままアメリカが主導するグローバル化の流れにただ追従する風潮がみられます。しかし、地球環境問題の深刻化やわが国の人口構造の高齢化、少年犯罪やテロなどの深刻な社会問題には、アメリカ型の市場万能主義では対応がかなり困難であることが明白になってきました。また、アジアを中心とする国際化は確実に進行していますが、アジアでもIMFが主導する性急な市場万能モデルが、かえって社会・経済の混迷を招いております。財貨、サービスおよび人の国境を越えた交流や情報のグローバル化は益々盛んになることが予想されますが、グローバル化が多様な文化を破壊することになれば、人類にとって大きな損失だと言えましょう。さらに、アメリカ一極主導型のグローバル化によっては、今後も多発することが予想される地域紛争の原因を根絶することは難しいと言えましょう。
これに対して、近年世界的に、北欧諸国や、北部ヨーロッパ諸国の社会・経済の動向が注目され、わが国でも関連する著書、論文が急増しています。この事実は、日本の政・官・財のリーダー達が従来よりどころとしてきたアングロサクソン・モデルに対して、識者が疑問を感じている証拠であると言えましょう。事実、北欧諸国や北部ヨーロッパ諸国は、バブル崩壊後の1990年代に構造改革に成功し、新しい経済成長を始動させたばかりでなく、地球環境問題、ITなどの先端分野、福祉、公共交通機関、地域経済などの分野でも持続可能な成長モデルの実験を始め、世界の注目を集めております。混迷の時代にあって、北ヨーロッパの社会、文化、歴史の研究を深化させ発信していく意義は高まっていると思われます。
ところが、これまで北ヨーロッパ研究者は全国に分散して、相互に十分なコミュニケーションを欠いており、若手の研究者などは研究発表の機会に恵まれない場合もしばしばでした。そこで、これそこで、これらの研究者が連携を深め、情報を発信していく基盤として、「北ヨーロッパ学会(Japan Association For Northern European Studies, JANES)」設立の提案がされ、多くの方々の賛同が得られ、設立準備委員会が学会開設の準備を進めてきました。学会の名称を北ヨーロッパ学会とした理由は、北欧諸国、オランダさらにドイツ北部やバルト諸国などは、歴史的および文化的にみて密接な関連があると考えるからで、可能なかぎり、各国研究者が広く集う学会を目指していきたいと思います。
北ヨーロッパ学会には、多様な専門分野別の専門部会を設置する予定です。又、国際的な組織とし、使用言語は日本語と英語とすること、さらにIT技術を活用し、学会からの連絡や報告書等の情報をインターネットで配信し、将来は、北ヨーロッパ諸国との密接な連携を目指すつもりです。
北ヨーロッパ学会は、2002年2月に設立準備委員会を設け、10月19日に発起人会を開催し、11月16日に設立総会を実施致しました。